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阿部一族

阿部一族
阿部一族
 ■1995.(94min.) 
 ■監督:深作欣二
 ■原作:森鴎外
 ■出演:山崎努、佐藤浩市、藤真利子、蟹江敬三、真田広之、石橋蓮司
 ■製作:フジテレビ、松竹

レヴュー

 あなたは本当は侍ではないのですか?
(と思わせるあたりがやはり素晴らしい。)

これぞ真田広之・侍の極み(断言)
武士道精神における悲劇中の悲劇・阿部一族。
真田広之扮する柄本又七郎は、阿部家の隣人であり、阿部家次男・弥五兵衛(佐藤浩市さん)の親友でもあります。

そして、彼の良き理解者でもあり、時代の理解者でもあります。
又七郎様の出番は基本的に「おいしい」とこ取り。
いや「おいしい」場面限定の出演です。
そして、このお話を締めているのも我が真田広之扮する又七郎様なのです。

 *****

時は寛永三年・春。
時代はゆるやかに、しかし確実に移りかわろうとしておりました。
又七郎様は藩主・細川忠利より200石を預かる立派なお侍さん。
一方、お隣さんの友人弥五兵衛さんはまだお侍カットにもしていない放蕩息子。

二人は槍の道場で日々、鍛練にあけくれております。
また、この槍さばきも見事な真田広之。もうウットリ♪♪(*´▽`*)ノ゛うふふ〜。
太刀とは違い、荒々しくも豪快な槍を時にしなやかに時に力強く振り回されます。
途中出てくる空手の三段跳びを思わせる軽快な身のこなしにまたもやウットリなワタクシ。
和的武器は何でも似合ってしまう素敵な真田広之、ステキです。

さて、ひと汗流したあとは汗を拭き取らねば。
洗顔するだけの弥五兵衛さんに対し、
上半身裸になられる又七郎様。
嗚呼、見事な肉体美。
胸板の厚み(*ノェノ)キャー。
今すぐ飛び込んでゆきたいわっ。(勝手に行けよ。)
ここでもサービスカットを忘れない深作監督、さすがです。
このカットがあるから妙なくせ毛でちょっと長めのモミアゲも許してしまおうっ。

ここで弥五兵衛さんの質問。
Q,「俺の方が背も高いし、手足も長いのに又七郎と互角なのはなぜだ?」
A,「そりゃ真田さんは13才からJACで技を磨いているから。」
はい、簡単なQ & Aでしたね。

 まあ、ここで爽やかに大笑いするちょっぴりキュートな又七郎様がご覧いただけます(ノ ̄▽ ̄)ノ〜〜〜〜。
そして、友情にあつく又常識人的な大人の振るまいも。

 *******

なんだかんだございまして、阿部家はじわじわと追い詰められまいります。
隣人の又七郎様はそれをじっと見守っておられます。思慮深いお方様なのです。

絶対に釣れそうもない小舟に乗って又七郎様と弥五兵衛さんは語り合っておいでです。弥五兵衛さんの素直な疑問に対して、大人の意見で悟ながらもさりげなくタイトルロールを言われる又七郎様ヾ(@⌒¬⌒@)ノ 。
友人としての気持ちもわかるし、侍としての立場もしっかり踏まえておいでです。
それをサラリと「目」と「口の端」で表現される真田広之絶品。

 ******

さてさて、阿部家はますます大変なことになります。
長男・権兵衛さん(蟹江敬三さん)が画面に写られるだけでも濃いのに、もっと濃い所行をしてくれます( ´△`)アァ-。
それも、寺ん中でお経さんがあがってる最中に細川守並びに殉死された皆さんの位牌の前で。何をしたかって?髷を落としたのさ。あーあ、落ち武者姿は益々濃いぜよ。

こんな濃いことをされればこの時代「乱心」と言うことにあいなりまする。
この一部始終を無言で見つめる男がございます。
そうです、我が又七郎様ですヽ(*⌒∇^)ノヤッホーイ♪。
台詞はなく、ただ表情だけでこの場面の重大さと武士をしての意地、男としてのプライドを表現されています。

権兵衛さんの気持ちはわかる、しかし、この行為はただではすまぬ。
これから起こるであろうことを予測しての哀しみにも似た武士道の心を凛々しくも「目」で訴えられます。ひょえー、カッコいいーっ(>_<)

 *******

隣人だから阿部家の動きはいつも筒抜け。 当主・阿部弥一衛門さん(山崎努さん)が決死の覚悟をして舞われている時も、討ち入りが入るため阿部家一門がその準備をしている時も(⌒^⌒)b。
ただ、だまって見守っておいでです。

又七郎様は自分の立場と相手のことを深く理解しておいでなのです。
だからこそ余計なことは一切なされません。
でもねー、きっと心の底では何とか助けたいとか、武士道を貫き通させるのがせめてもの情けとか、いろいろ複雑なんだと思う。
だから、凛々しくも切ないんだ、又七郎様の表情。 胸が痛くなるんだ。

 ******

討ち入りが始まる前に阿部家の子どもたちにお手製のおもちゃをこしらえる又七郎様。
これにお菓子を添えて奥さんに見舞いに行かせます。
奥さんが今生の別れを済ませ泣きながら戻ってくるとあろうことか又七郎様は討ち入りの準備をなさっているではありませんかΣΣ(゚д゚lll)。

奥さんはわけがわかりません。
「情」は情、「義」は義。 そう言い放つ又七郎様。
ここからは男の武士の世界なのです。

 ******

どうやらお隣は討ち入りが始まった様子。
じっと時を待つ又七郎様。
その面持ちは辛くもあり、切なくもあり、凛々しくもあり......。
討ち入りも佳境に入ったと思われる頃、満を持して又七郎様は阿部家に向かわれます。

槍を片手に弥五兵衛の名を叫びながら。
観ている方が苦しくなってくるような深い叫びなのです。
途中で阿部家の兄弟を討ちます。
その時倒れた先には阿部家の女子どもの自害した姿が。
わかっていたこととは言え、又七郎様哀しみの色が隠せません。

悲劇の現場を目の当たりにしてしまった隣人。
血まみれで倒れている子どもの手の先には自分がこしらえたおもちゃ。
その時、まだ息絶えてなかった奥方が又七郎様に切り掛かってまいります。
あえて避けずその痛みを実際のキズと共に受ける又七郎様。
しかし、奥方はそこにいた討ち入り武士たちに斬られてしまいます。 又七郎様は必死に止められましたが.......。

ここで弥五兵衛さんに出会います。
弥五兵衛さんはもうフラフラです。
「よく来た。又七郎。」
とすごい形相で言われます。きっと彼にはわかっていたのでしょう。
友人が自分の最期を飾ってくれることを。


「手を出すな!」


又七郎様は一騎討ちに持っていこうとされます。
「友情」と「義」のための哀しい、しかし、潔い死闘が繰り広げられます。
最期だからこそ本気のぶつかり合いです。
そして、又七郎様は友人を自らの手にかけるのです。

 *******

討ち入りは終わりましたが、お互いに無惨な結果のみが待っていました。
阿部家は17名全てがなくなり、討ち入り軍はその倍は遺体で戻ってくるのです。

 白塗りの殿様・細川光尚はこの惨劇に激怒します。
そして一番の働きをみせた者を聞き出します。
すると、討ち入りのメンバーには入ってなかったけど阿部家首謀格・弥五兵衛を討ち取った又七郎様の名が上がります。

これに気を良くした白塗りの殿様が褒美をとらすと言います.
すると、キッと凛々しくも顔をあげ殿様の目をじっと見据えて

「昔はこのようなことは朝膳前だったとか。
ならばたかが阿部家を討ち取ることなど茶の子、茶の子、朝茶の子でございます。」


みたいなことを言われます。
ここがすごく切ないです。 武士道精神を穢すことなく、悲劇を招いただけのお前らがやったことに何の意味があるのだ、と厳しくしかも有無を言わせぬ抗議をされるのです。 阿部一族の死を無駄にはしない。
ニ度とこんなことが起きないように、たった一人でそのことを身を持って立証されたのでありました。


真田さん、あなたはホントに現代人?
お侍さんにしか見えません。
この悲劇を後世に伝えるために生まれてこられたの?
と、一般ピープルに思わせてします素晴らしい演技ぶりにいつしかツッコミも忘れてしまう程深いお話しでした。


そして、その「深さ」を「目」で語る真田広之。
「目は口程にものを言う」を実践されています。
だからこそ、このお話は悲劇のなかに深さがあり、どこかしら愛があるのです。
ホントに真田広之は凄い。


びっくりしたけどこれは映画ではないのね。
TVで放映されたもの。しかし、深作監督は「映画で撮れば良かった」と言われてます。
うん、わしもそう思う。
内容が深すぎるし濃すぎるだろう。
男の武士道を女の目線から見たところも多々あってその時代び生きた女たちの痛々しさを感じます。



シェークスピアも真っ青な悲劇です。

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